冒頭の写真では、白い器と銀色のスタンドを背景に、ぶどうの緑と紫がまっすぐ目へ入る。上段には一粒をのせたムラングシャンティや、薄く切った果実を重ねたタルト。中段のガラス器には、加工していない粒が残されている。果実を飾りとして添えるのではなく、菓子になった姿と、その前の姿を同じ視界に置く組み立てだ。
菓子になる前の一粒を残す
水戸プラザホテルの「マスカットアフタヌーンティーセット」は、8月21日から10月15日まで。茨城県常陸太田市の本多ぶどう園から届くシャインマスカットを主役に、トライフル、和紅茶のジュレ、タルト、ムラングシャンティへ形を変える。そこへ、農園が時期ごとに選ぶ生果の盛り合わせが加わる。
編集部が注目したのは、皿の中央に生果があることだ。クリームや生地と重なった一粒は、菓子全体の線や色をつくる。一方、手を加えない粒は、果皮の色、大きさ、果肉へ入るまでの感触を品種ごとに確かめる入口になる。先に盛り合わせを見てから菓子へ戻れば、パティシエが果実のどこを残し、どこを別の素材へ渡したのかを考えられる。
盛り合わせの品種は固定ではない。公式案内には巨峰と、常陸太田市生まれの常陸青龍が例として挙がるが、その日の内容は旬に応じて変わる。すべての皿に両品種が必ず並ぶと決めつけず、訪れる時期の出会いとして受け取りたい。
黄緑の粒に、土地の名前がある
常陸太田市の公式資料によると、この土地のぶどう栽培は1959年に試作が始まった。常陸青龍は1978年、市内の農家が巨峰の実生から育てた黄緑色のぶどうで、1998年から1999年に果実と生育の特性が調べられ、2004年に常陸太田ぶどう部会が品種登録した。皿の上では小さな緑の粒でも、そこには四半世紀を超える選抜と確認の時間が折り畳まれている。
本多ぶどう園の公式サイトには、巨峰、常陸青龍、シナノスマイルをはじめ複数の品種が並ぶ。現在の販売状況を示す案内は前年のままで、農園から直接購入できる時期や在庫は最新情報の確認が必要だ。ただ、今回のホテル公式発表に農園名が明記されたことで、皿から育て手へ戻る道筋は見える。産地を「茨城県産」の一語で閉じず、農園と品種まで読むことができる。
前年も、水戸プラザホテルは本多ぶどう園の果実を使うアフタヌーンティーを開いていた。季節ごとに農園が選ぶという形が今年も続くことは、同じ品種を毎年同じ味として消費しないための手がかりになる。収穫時期と出来によって皿の顔が変わる。その揺らぎを残せるのは、生きた植物から始まるメニューだからだ。
緑の中庭で、果実の色を見る
会場のカフェ&バー・プラザは、ホテルが「中庭」と呼ぶアトリウムガーデンパークに面する。ホテル公式ページでは、吹き抜けの空間に植栽を取り込み、2025年4月にその配置を改めたと案内している。屋外の果樹園を再現した場所ではない。それでも、葉の緑が視界にある席で果実の緑を見ると、完成した菓子と育ってきた植物の距離を意識しやすい。
三段スタンドには、ぶどうのほか、カッサータ、二種のスコーン、鰆のトマトエスカベッシュ、きのこのキッシュ、サンドイッチなどが組み合わされる。植物を主役に読むなら、品数を追うより順番を選びたい。まず生果の色と形を見て、次にタルトやトライフルへ進み、最後にもう一度盛り合わせへ戻る。一つの房が、素材、菓子、土地という三つの見え方を持ち始める。
訪れる日の品種を、席で尋ねる
料金は一人4,800円で、税金とサービス料を含む。平日は12時から16時、土日祝は12時と15時の二部制で、土日祝は120分。写真に写る色だけを目当てにせず、その日に届いた品種名を尋ねてみたい。黄緑の粒がシャインマスカットなのか常陸青龍なのか、紫の粒が巨峰なのか別の旬なのか。名前を確かめるだけで、皿は土地の記録へ近づく。
植物は、鉢や庭にあるときだけ植物として見えるわけではない。房から外れ、菓子の上に一粒だけ残ったときにも、育てた土地と季節を読み取れる。緑と紫を一皿で比べる午後は、食べ終えれば消える。それでも品種の名前を覚えて帰れば、次に果実を選ぶ視線は少し変わる。
