最初の一枚では、円の輪郭をつくる茎の一本一本がまだはっきり見える。細い茎をそろえ、太い束にし、縄で区切りながら円へ曲げる。輪の左右からは葉を落とした長い枝が屋根近くまで伸び、中央の向こうに「いつきのみや歴史体験館」の木の札が収まる。植物だけを切り取った造形ではなく、建物の入口と人の動線を組み替える大きさだ。
まっすぐな茎を、円の骨格へ
この茅の輪を制作したのは、三重県明和町で麻文化の継承に取り組む天津菅麻プロジェクト。運営者の発表によれば、材料は斎宮史跡内の麻畑で収穫した国産大麻の茎で、輪には100%使われている。一般的な茅ではなく麻を選んだのは、栽培のなかで残る茎へ、地域の行事に続く役目を見つけるためだ。
繊維のために育てる畑では、すべての株が同じ用途へ進むわけではない。プロジェクトは、外周部で採種用として残す株の茎に着目したと説明する。採る、績む、織るという麻の物語に、束ねる、曲げる、くぐるという別の動作が加わった。素材を余さず使うという言葉より先に、その判断が直径の大きな輪として目に入る。
制作記録には、朝に刈り取った青い茎をそろえ、地域の協力者と手で組んだ工程が残されている。完成写真を見ると、下半分は細い茎が密に重なり、上へ行くほど枝の線がほどけていく。同じ植物でも、束の中央は構造になり、先端は輪郭を外へ広げる。切りそろえて均質にするのではなく、茎の長さを造形の一部として残している。
茅の輪の名を残し、素材を置き換える
茅の輪は、夏越の祓でくぐる円形のしつらえだ。今回の輪は、旧暦の六月末に行われてきた季節行事を、2026年の暦では8月12日にあたる時期へ重ねている。公式案内には、三度くぐる作法と、二度目の唱え詞に「麻の葉」が現れることも記されている。植物の名前が言葉に残り、その茎が実物の輪になる。文字と素材が同じ入口で出会う点に、この企画の面白さがある。
ただし、古い形式をそのまま再現したものとして眺めるだけでは足りない。写真に写る輪は、茎の太さや曲がり、束を留める間隔まで見える。手仕事は均一さを消すのではなく、不ぞろいな植物を一つの円へまとめるために使われている。木の梁、石の床、麻の緑が重なる入口は、素材の由来を説明板だけに預けない。
形としては、誰もが輪の中央を通れるほど明快だ。それでも近づけば、真円を描く線が一本の素材ではなく、数多くの茎の集合だと分かる。遠くから見える象徴と、近くで見つかる植物の個体差。その二つを往復できることが、写真だけで終わらない現地の見どころになる。
畑から入口までを、一続きの仕事として見る
天津菅麻プロジェクトは、明和町の麻文化を起点に、伝統技術の継承、環境との共生、新しい地域産業を掲げる産学官連携の取り組みだ。今回の茅の輪は、その大きな構想を、誰でも近づける一つの造形へ縮めて見せる。栽培の記録だけでも、工芸品の展示だけでもなく、育った場所と使われる場所が同じ地域のなかで結ばれている。
RareDexが注目したいのは、「国産大麻」という強い響きより、一本の植物が用途を変えるまでの具体だ。畑でまっすぐ伸びた茎は、束にすると線が集まり、曲げると人が通れる空間になる。植物を部屋へ迎えるときにも、葉の姿だけでなく、支柱、鉢、棚、動線まで含めて居場所を考える。この輪は、その関係を建物の尺度まで広げている。
くぐる前に、結び目へ目を向ける
いつきのみや歴史体験館は、近鉄斎宮駅から徒歩約1分。輪は見学無料で、自由にくぐれると案内されている。訪れるなら、正面の円だけでなく、茎の向きが変わる場所、縄で締めた結び目、左右の支えに、造形の仕組みが表れる。一本では保てない形が、束と間隔によって立ち上がっている。
発表では展示終了日が示されていないため、遠方から向かう前には施設へ公開状況を確かめたい。季節の行事は日付を過ぎれば終わるものも多いが、植物を育て、刈り、別の形へ組み直した記録は残る。輪の向こうへ歩く数秒のなかに、その茎が畑で過ごした季節まで想像できる余白がある。
