Culture

刈った麻を、緑の輪へ。斎宮に現れた夏越のかたち

国産大麻の茎を組み、いつきのみや歴史体験館の入口へ。栽培の余白を地域の行事へ戻す

木組みの屋根の下に、青い茎を幾重にも束ねた大きな輪が立つ。三重県明和町のいつきのみや歴史体験館に現れたのは、斎宮跡の麻畑で育った国産大麻を使う茅の輪だ。まっすぐに伸びた植物を円へ曲げ、繊維とは別の役目を与える。8月8日に設置された輪には、畑、手仕事、季節の行事が一つにつながるまでの時間が残る。

木組みの屋根の下に、国産大麻の茎を束ねた大きな茅の輪が立つ、いつきのみや歴史体験館の入口
写真提供:明和観光商社(PR TIMES掲載資料)

最初の一枚では、円の輪郭をつくる茎の一本一本がまだはっきり見える。細い茎をそろえ、太い束にし、縄で区切りながら円へ曲げる。輪の左右からは葉を落とした長い枝が屋根近くまで伸び、中央の向こうに「いつきのみや歴史体験館」の木の札が収まる。植物だけを切り取った造形ではなく、建物の入口と人の動線を組み替える大きさだ。

まっすぐな茎を、円の骨格へ

この茅の輪を制作したのは、三重県明和町で麻文化の継承に取り組む天津菅麻プロジェクト。運営者の発表によれば、材料は斎宮史跡内の麻畑で収穫した国産大麻の茎で、輪には100%使われている。一般的な茅ではなく麻を選んだのは、栽培のなかで残る茎へ、地域の行事に続く役目を見つけるためだ。

繊維のために育てる畑では、すべての株が同じ用途へ進むわけではない。プロジェクトは、外周部で採種用として残す株の茎に着目したと説明する。採る、績む、織るという麻の物語に、束ねる、曲げる、くぐるという別の動作が加わった。素材を余さず使うという言葉より先に、その判断が直径の大きな輪として目に入る。

制作記録には、朝に刈り取った青い茎をそろえ、地域の協力者と手で組んだ工程が残されている。完成写真を見ると、下半分は細い茎が密に重なり、上へ行くほど枝の線がほどけていく。同じ植物でも、束の中央は構造になり、先端は輪郭を外へ広げる。切りそろえて均質にするのではなく、茎の長さを造形の一部として残している。

茅の輪の名を残し、素材を置き換える

茅の輪は、夏越の祓でくぐる円形のしつらえだ。今回の輪は、旧暦の六月末に行われてきた季節行事を、2026年の暦では8月12日にあたる時期へ重ねている。公式案内には、三度くぐる作法と、二度目の唱え詞に「麻の葉」が現れることも記されている。植物の名前が言葉に残り、その茎が実物の輪になる。文字と素材が同じ入口で出会う点に、この企画の面白さがある。

ただし、古い形式をそのまま再現したものとして眺めるだけでは足りない。写真に写る輪は、茎の太さや曲がり、束を留める間隔まで見える。手仕事は均一さを消すのではなく、不ぞろいな植物を一つの円へまとめるために使われている。木の梁、石の床、麻の緑が重なる入口は、素材の由来を説明板だけに預けない。

形としては、誰もが輪の中央を通れるほど明快だ。それでも近づけば、真円を描く線が一本の素材ではなく、数多くの茎の集合だと分かる。遠くから見える象徴と、近くで見つかる植物の個体差。その二つを往復できることが、写真だけで終わらない現地の見どころになる。

畑から入口までを、一続きの仕事として見る

天津菅麻プロジェクトは、明和町の麻文化を起点に、伝統技術の継承、環境との共生、新しい地域産業を掲げる産学官連携の取り組みだ。今回の茅の輪は、その大きな構想を、誰でも近づける一つの造形へ縮めて見せる。栽培の記録だけでも、工芸品の展示だけでもなく、育った場所と使われる場所が同じ地域のなかで結ばれている。

RareDexが注目したいのは、「国産大麻」という強い響きより、一本の植物が用途を変えるまでの具体だ。畑でまっすぐ伸びた茎は、束にすると線が集まり、曲げると人が通れる空間になる。植物を部屋へ迎えるときにも、葉の姿だけでなく、支柱、鉢、棚、動線まで含めて居場所を考える。この輪は、その関係を建物の尺度まで広げている。

くぐる前に、結び目へ目を向ける

いつきのみや歴史体験館は、近鉄斎宮駅から徒歩約1分。輪は見学無料で、自由にくぐれると案内されている。訪れるなら、正面の円だけでなく、茎の向きが変わる場所、縄で締めた結び目、左右の支えに、造形の仕組みが表れる。一本では保てない形が、束と間隔によって立ち上がっている。

発表では展示終了日が示されていないため、遠方から向かう前には施設へ公開状況を確かめたい。季節の行事は日付を過ぎれば終わるものも多いが、植物を育て、刈り、別の形へ組み直した記録は残る。輪の向こうへ歩く数秒のなかに、その茎が畑で過ごした季節まで想像できる余白がある。

参考リンク・出典

この記事の調査・執筆で参照した情報です。各発信元でも原文をご確認いただけます。

  1. 【日本唯一の試み】三重県明和町・斎宮の『国産大麻』で制作した『大麻の茅の輪』を特別公開! — 一般社団法人明和観光商社 / PR TIMES
  2. 日本初!?国産大麻の茅の輪を作成しました。 — 一般社団法人明和観光商社
  3. 天津菅麻プロジェクト — 天津菅麻プロジェクト
  4. アクセス — いつきのみや歴史体験館 — いつきのみや歴史体験館
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