何も掛けていないハンガーは、ふだん目立たない。けれど、木の床に置かれた黒竹ハンガーの写真を見ると、その考えが少し変わる。黒に近い一本、飴色を帯びた一本、表皮の模様が大きく残る一本。均一な輪郭ではなく、竹が育った時間を含む曲線が並んでいる。竹虎を運営する山岸竹材店は8月3日に新作を発表し、7月31日から販売を始めた。
節を削らず、服を留める形にする
黒竹は根元から先端へ向かうにつれて節の間隔が変わる。新作では職人が一本ずつ状態を見て、両端と肩に節が来るよう仕立てた。わずかに張り出す節が衣類の滑り止めになる。自然素材の特徴を隠して工業製品へ近づけるのではなく、植物の構造を道具の働きとして残す発想だ。
黒竹という名から、全体が一様な黒だと思うかもしれない。実際には紫を含む褐色から明るい茶まで濃淡があり、節の周りだけ輪のように色が切り替わる。竹虎の説明では、表面は生育の途中で緑色から紫黒色や紫褐色へ変わっていく。完成品に残る色差は、塗装のむらではなく、一本の竹のなかにも時間と部位の違いがあることを示している。
肩から肩へ伸びる線は、細い一本の黒竹をそのまま曲げている。中央には小さな竹の支えが入り、先端にも切り口と節の輪郭が見える。金属製や樹脂製のハンガーのように衣類の後ろへ消えず、シャツを手に取ったあとにも植物の形が残る。オープンクローゼットや衣桁のように、収納が部屋の景色になる場所でこそ、その違いが分かりやすい。
まっすぐに整え、もう一度弧を描く
伐採した竹は、最初からまっすぐではない。竹虎はガスバーナーで熱を加え、内部からにじむ油と表面の汚れを拭き取る「油抜き」を行う。同社の工場記録では、熱で竹がやわらかくなった間に曲がりを直す矯め作業も行うと説明されている。黒竹ハンガーは、その技術を反転させるように、整えた材を今度は美しい弓形へ曲げていく。
深い艶は塗料で均一に塗った色ではなく、加熱によって表面に現れる竹自身の油分によるものだという。色の濃さや表皮の残り方が違うため、掲載写真にも同じ表情のものはない。衣類や家具を選ぶとき、節や色むらを欠点ではなく素材の履歴として見る人なら、一本を選ぶ時間まで楽しめそうだ。
竹を弧にする技術は、この製品だけのために生まれたものではない。公式商品ページでは、丸窓に使う黒竹の曲げ加工で培った技が生かされていると紹介されている。建築の開口部を縁取ってきた曲線が、肩幅ほどの生活道具へ縮尺を変えたと考えると、ハンガーの輪郭にも空間を整える意味が見えてくる。
最初に掛けたいのは、軽い一着
サイズは幅約43センチ、高さ約20センチ、奥行き約1.5センチで、重さは約55グラム。フックは360度回転し、抜け落ちないよう竹栓が留めている。販売価格は4,180円。竹虎は、重いコートではなくブラウスなど軽めの衣類から使うことを勧めている。自然素材の細い線を生かした道具だから、荷重の目安も選び方の一部になる。
保管は直射日光を避け、風通しのよい場所で。通気性の悪い袋に入れたままにすると、カビの原因になりうる。表皮の一部が剥がれている場合や、形、色、大きさが写真と異なる場合もある。購入時は一律の仕上がりを求めるより、手持ちの服の重さ、掛ける場所の湿気、一本ごとの表情を確かめたい。
幅43センチという寸法は、ブラウスや軽いシャツを一着ずつ見せるのに扱いやすい。生成りのリネンなら黒竹の線が際立ち、濃色のジャケットなら節の明るい輪が小さなアクセントになるだろう。素材の相性を考えるときは、服の色だけでなく、近くにある木の棚、金属のバー、陶器の鉢との距離も見たい。一本のハンガーが、収納の素材構成を考え直す入口になる。
クローゼットに、植物の輪郭を残す
竹虎は1894年創業。竹材から生活道具まで手がけてきた時間が、節をどこへ置くか、どの熱で曲線を出すかという小さな判断に現れる。新しさは奇抜な造形ではなく、昔からある製竹の技術を、現代の服を掛ける寸法へ移したところにある。
服と植物を同じ部屋に置く方法は、鉢を増やすことだけではない。植物が育てた節を読み、手で整えた一本を毎朝の動作へ加えることもできる。お気に入りのブラウスを掛け、着たあとの空いた弧まで眺める。手に取るたび、節の位置を指先で確かめる動作も生まれるだろう。黒竹ハンガーは、収納の内側に隠れがちな道具を、植物と過ごす小さな景色へ戻してくれる。
- 販売開始:2026年7月31日
- 価格:4,180円(税込)
- サイズ:約W43×H20×D1.5cm、約55g
- 素材:黒竹、日本製
- 販売:虎斑竹専門店 竹虎
