Culture

シダの渦を、クリスタルに残す。ラリック「トゥールビヨン」の100年

スザンヌ・ラリック・ハヴィランドが描いた1926年の線を、コーラルのパティーナが照らす

透明なクリスタルの内側を、淡いコーラルの線が大きく旋回する。花を挿す前から、そこには葉がほどける途中のような動きがある。ラリックのフラワーベース「トゥールビヨン」は2026年、誕生100周年を迎えた。1926年に生まれたシダの渦が、新しい色と光をまとい、現在の部屋へ戻ってきた。

透明なクリスタルにコーラル色の渦巻き模様を施したラリックのフラワーベース「トゥールビヨン」
© Lalique SA 撮影:Karine Faby

ラリックの公式プレス写真では、透明な器の表面をコーラル色の渦が巡っている。直線はほとんど見えない。ひとつの弧が次の弧へ重なり、磨かれた部分は白い背景を鋭く返し、サテン仕上げの部分は色をやわらかく留める。植物そのものを描かず、植物が開くときの運動だけを取り出したようなフラワーベースだ。

「トゥールビヨン」が生まれたのは1926年。ラリックの公式発表とミュゼ・ラリックは、ルネ・ラリックの娘であるスザンヌ・ラリック・ハヴィランドがデザインした作品として紹介している。100周年にあたる2026年6月15日、日本でもコーラルのパティーナをまとったアニバーサリー・コレクションが発売された。

植物を写さず、ほどける動きを残す

着想源は、シダが芽吹き、葉を広げていく姿だった。シダの若い葉には、先端を内側へ巻いたまま伸び、少しずつほどけていくものがある。「トゥールビヨン」の渦は、その一瞬を写実的な葉脈ではなく、反復する曲線へ翻訳している。植物名を知らなくても動きを感じられ、知ってから見ると、巻いた葉の記憶がクリスタルの奥に浮かぶ。

ミュゼ・ラリックによれば、オリジナルは透明なプレスガラスに黒いエナメルを施したものだった。黒い線は植物文様の輪郭を強くし、アール・デコらしい幾何学性を前へ出す。このガラス版は1951年まで作られ、2005年に素材をクリスタルへ替えて再び制作された。形が同じでも、素材が変われば光の抱え方は変わる。100年のあいだ、この器は一つの完成形として止まらず、ガラス、エナメル、クリスタル、色彩の技法を渡ってきた。

コーラルが、透明な渦に奥行きをつくる

100周年版を託されたのは、ラリックのクリエイティブ・ディレクター、マルク・ラルミノー。新しいコーラルのパティーナは、透明な面を塗りつぶすのではなく、凹凸に沿って色を残す。公式写真を見比べると、外側の線は輪郭として立ち、内側では屈折によって別の位置へ重なる。一本の渦が、見る角度ごとに増えたり消えたりする。

ここで色は、季節の花を指定する背景ではない。白い枝なら透明感が際立ち、深い緑の葉ならコーラルとの補色に近い緊張が生まれる。何も挿さずに置けば、器そのものが光を受ける彫刻になる。花器は植物を支える道具でありながら、植物が不在のときにも、その動きを部屋へ残せる。

RareDexが注目したいのは、シダを精密に再現しなかったことだ。葉の輪郭を削り、開く力だけを残したから、100年後の色や素材を受け入れられた。植物をモチーフにするとは、花や葉を表面へ貼ることだけではない。成長の向き、重なり、反復を、手で触れられる造形へ移すことでもある。

部屋に迎えるなら、重さまで景色に含める

日本での100周年コレクションは、スモール、標準、XXLのコーラル版に加え、金箔を用いたXXLの限定版が用意された。2026年7月23日現在、ラリック ジャパンが案内する税込価格は、スモールが242,000円、標準が1,100,000円、XXLが2,706,000円。価格差は高さだけでは読めない。標準でも直径は20センチ、重さは6キログラムを超えるため、花器というより小さな建築のような存在感になる。販売状況は変わるため、購入時には公式ページまたはブティックで確かめたい。

寸法だけでなく重量も、置き場所を決める大切な要素になる。公式プレス資料では、スモールは高さ12.6センチ・約1.43キログラム、標準は高さ20.8センチ・約6.74キログラム、XXLは高さ26.7センチ・約15キログラム。細いコンソールや軽い棚へ気軽に置くより、天板の耐荷重と奥行きを確かめ、周囲に手が触れにくい余白を取る方がいい。

一輪の枝を挿す日も、空のまま光を受ける日もある。器と植物の関係は、完成した組み合わせを固定することではなく、季節ごとに重心を編集し直すことなのかもしれない。シダがほどける速度を100年分のクリスタルへ留めた「トゥールビヨン」は、部屋に置かれたあとも、見るたびに別の線を返してくる。

参考リンク・出典

この記事の調査・執筆で参照した情報です。各発信元でも原文をご確認いただけます。

  1. LALIQUE CELEBRATES THE 100TH ANNIVERSARY OF THE TOURBILLONS VASE, AN ICON OF LALIQUE SAVOIR-FAIRE SINCE 1926 — Lalique Group Press Room
  2. フラワーベース「トゥールビヨン」誕生100周年記念コレクション発売 — Lalique Japan
  3. Tourbillons vase — Musée Lalique
  4. Tourbillons — A century of light in motion — Lalique France

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