冒頭の写真に写るのは、濃淡のある木目をそのままフロントへ生かした一本だ。角に丸みを残した輪郭、細い枝のようなテンプル、レンズに留まる水滴。木を模した色や印刷ではなく、素材が育つ間につくった線が、左右で少しずつ違う表情を見せる。顔の中心に置く道具だからこそ、均一ではない模様が装いの一部になる。
屋久島の森から、香港のデザインへ
UNSUIKYOは、デザイナーのBrian Chanが2017年に香港で立ち上げたアイウェアブランドである。名の由来は、屋久島の白谷雲水峡。ブランドを紹介する香港デザインセンターの公式プログラムには、Chanが森の景観に触れ、堆積岩や木材をフレームへ取り入れた経緯が記されている。森の姿を絵柄として写すのではなく、岩と樹木という構成要素を、身につける素材へ移した。
日本の正規販売元であるヤブシタの案内によれば、コレクションにはインドネシア産の黒檀、アメリカ産のウォールナット、エジプト産の石材などが使われる。そこへ炭素繊維を組み合わせ、香港で設計し、福井県鯖江市で一本ずつ手作業する。産地の違う素材が、眼鏡づくりの集積地で顔に沿う寸法へ整えられる。その移動の長さも、フレームに残る層の一つだ。
木と石を、薄い輪郭へ仕立てる
木の魅力は、家具のような面の広さがなくても失われない。眼鏡では数ミリの縁に木目が集まり、眉や髪、服の色に近い距離で見える。黒檀の深い色は黒いセルフレームとは異なる濃淡を持ち、ウォールナットの茶色は肌と服の間をやわらかくつなぐ。一本ごとの差を欠点ではなく選ぶ理由にできることが、天然素材を顔まわりへ迎える面白さだ。
石はさらに意外な素材である。重い塊を想像するが、UNSUIKYOでは薄い石の表情と炭素繊維を組み合わせ、眼鏡の構造へ落とし込む。銀座ミツメドウが紹介する「MixedClip-Stone」では、鉱物の色むらがフロントを横切り、着脱式のチタン製クリップが別の輪郭を重ねる。クリップにはZEISSレンズを用いると主催者は案内している。素材の古い時間と、精密な金属部品が一つの顔の上で接続する。
もう一つ注目したいのが「Scion」だ。公式発表では、縄文杉の幹に刻まれた模様から着想し、テンプルの意匠へ置き換えたという。大樹の大きさを縮小して飾るのではなく、樹皮の反復を細部へ残す。白谷雲水峡から始まったブランドが、木を材料として使うだけでなく、樹木を見る視線までプロダクトへ重ねていることが分かる。
約50本を、服と顔のあいだで選ぶ
トランクショーには、木材、石材、炭素繊維を使った約50本のサンプルが並ぶ予定だ。オンラインの商品写真では素材の種類を比べられても、木目が眉の線とどう重なるか、石の色が肌や髪にどう映るかまでは決めにくい。同じ形でも模様の位置が変わる天然素材なら、正面だけでなく、横顔に伸びるテンプルまで鏡で見たい。
服との合わせ方も、眼鏡を単独で考えないための手がかりになる。木のフレームには、生成りのリネンや褐色のレザーだけでなく、端正なネイビーや白いシャツを合わせると木目の揺らぎが際立つ。石のフレームなら、ニットやウールの柔らかな面に硬質な模様を加えられる。植物を鉢と家具の間で選ぶように、眼鏡も顔、服、素材の距離で選ぶと、一本の理由が見つけやすい。
会場の銀座ミツメドウは、国内外の独立系ブランドを扱う眼鏡店。今回の注文品は、受け取りまでおよそ1〜2か月を見込むと案内されている。すぐ持ち帰る買い物ではなく、サンプルで形と素材を確かめ、製作を待つ時間まで含む。自然素材の個体差と手作業の工程を選ぶなら、その待ち時間も既製の均一さとは違う価値になる。
森を再現せず、その線を暮らしへ
植物を身につける方法は、花柄や葉のモチーフだけではない。木がつくった線を残し、石が重ねた色を薄く切り出し、顔に沿う道具へ変えることもできる。UNSUIKYOの眼鏡は、白谷雲水峡の景色そのものを持ち帰るものではない。森で見つけた素材へのまなざしを、毎朝、服を選び鏡を見る動作へ置き直す。銀座の約50本は、その翻訳を顔の近くで比べる機会になる。
