ダンサーのエマ・ポートナーとトゥーン・ロバッハが身を置くのは、植物標本集を意味するハーバリウムやガラスのベルジャーが並ぶ学術室のようなセットだ。撮影はアムステルダムを拠点とするブロマーズ&シュム。エリック・ウィンコウスキーが描いた花は、壁に掛けられた標本ではなく、黒い革靴の先から部屋へ伸びていく。
キャンペーン名は、植物相を意味するFloraと、場所を示す接尾辞-topiaを組み合わせたもの。CAMPERはこの架空の場所を「Camperium」と呼び、靴を標本のように並べる。1988年に始まったTWINSの左右非対称という考え方が、花の形や一株ごとの差を受け止める器になった。
四つの学名が 靴の輪郭を変える
公式のデジタルキャンペーンには、Tulipa gesneriana、Lilium candidum、Bellis perennis、Ranunculus acrisの名が並ぶ。キュー王立植物園のPlants of the World Onlineでも、いずれも現在受容されている学名として扱われている。チューリップとユリはユリ科、ヒナギクはキク科、キンポウゲはキンポウゲ科。ひとまとめの「花柄」ではなく、属も科も異なる植物が選ばれた。
Casi Myraにはパーロット咲きのチューリップを思わせる揺れる輪郭、Deanには白いユリ、PelotasとRunner Twentyfiveにはヒナギク、Right Leftにはキンポウゲが対応する。植物の特徴を靴の機能へそのまま置き換えた図鑑ではない。低く構える形、革の線、左右の違いに、植物名から連想した性格を重ねたデザインノートに近い。
四つの植物は、花の大きさも生え方も異なる。Tulipa gesnerianaとLilium candidumは地下に球根を持ち、Bellis perennisは地際に葉を広げる多年草、Ranunculus acrisは掌状に裂けた葉と枝分かれする茎を持つ。キャンペーンの一足ずつを眺めると、刺繍の位置や線の高さにも、花を選び分けた理由が浮かぶ。
青いキンポウゲは 意図されたずれ
とりわけ面白いのはRanunculus acrisだ。英国王立園芸協会は、この多年草の花を光沢のある黄金色と記載する。一方、CAMPERはRight Leftに結び付けた青いキンポウゲを、植物学上の「anomaly」と自ら呼んでいる。実在する花色を忠実に写したのではなく、あり得ない青を異質さの印として選んだことが分かる。
バレリーナシューズとヒールの間にあるRight Leftも、一つの型へ収まらない存在だ。学名は正確さの記号として置かれながら、色はそこから意識的にはみ出す。標本室の規則と、描かれた花の自由さ。その距離が、今回の植物表現を単なるボタニカルプリントから遠ざけている。
標本の静けさから 花が歩き出す
実際の標本は、植物を押し葉にし、採集地や日付、名称とともに保存する。Floratopiaが借りたのは、その保存方法ではなく、細部へ名前を与えて観察する姿勢だ。左右が異なる靴を一足として眺めるとき、花弁の向きや茎の曲がり、刺繍とプリントの差まで視線が近づく。
ただし、キャンペーン上の説明を植物図鑑として受け取る必要はない。パーロットチューリップという園芸的な姿とTulipa gesnerianaの名、青く描かれたRanunculus acrisの間には、意図的な創作がある。植物学を装飾的な権威として借りるだけでなく、その正確さから逸脱する瞬間まで見せたことに、CAMPERらしい遊びが残る。
難波では 9月15日まで
2026年秋冬コレクションは9月2日から世界のCAMPER店舗、公式オンラインストア、取扱店で発売された。大阪髙島屋2階のPOP UP STATIONでは、同日から9月15日までFloratopiaの期間限定店が開かれている。公式案内によれば、花を取り入れた新作に加え、シューズとバッグを揃える。
植物をまとう服や靴は、しばしば花の美しさだけを切り取る。Floratopiaでは、学名、分類、標本、異常という少し硬い言葉までが、左右違いの一足を支えている。足元に残るのは花束の華やかさだけではない。一つずつ名を持ち、同じ形には育たない植物を観察する時間である。
