記事の顔となる写真は、海を写していない。画面の左を占めるのは、光を透かす大きな葉と、その影を受ける白い壁。右には木を張った深い軒、ガラス戸の奥にベッドが見える。中央の炉を囲む低いベンチまで、葉影が斜めに伸びている。青島の海辺に建つ家でありながら、最初に目を止めたいのは、植物がつくる内と外の境目だ。
海側だけでなく、中庭側へひらく
NOT A HOTEL AOSHIMAの新棟COASTは、既存の二つの建築から特徴を受け継いだ。プライベートプールを持つ「SURF」と、二種類のプライベートガーデンを持つ「GARDEN」。海へ出る動線と、庭にとどまる動線を、133.57平方メートルの屋内と76.52平方メートルの屋外空間を持つ一棟へまとめている。
海側にはプールサイドテラス、入口を抜けた側にはBBQや焚き火に使える私庭がある。二つの寝室のうち、一階のゲストベッドルームはその庭につながる。眺望を一方向へ集中させず、朝は海、食事は庭、休むときは室内というように、滞在する人が身体の向きを選べる構成だ。
リビングは天井高3.2メートルのメゾネット空間で、窓を開けるとアウトドアリビングへ続く。公式資料は庭の植物名や植栽設計者を公表していないため、樹種や育て方までは読み込めない。それでも、庭が寝室、食事、焚き火という複数の行為と直接つながっていることは、植物を背景ではなく、滞在の一室として考えた設計だと分かる。
葉の影が、木とタイルの境目をほどく
写真では、庭の葉は軒より高く伸び、白い壁の上で細長い影と扇形の影を重ねる。床と炉は直線で組まれ、ベンチと軒には濃い木色が続く。動かない水平線の多い空間に、風や光で輪郭を変える影だけが入り込む。植物そのものの量より、その影が室内側まで届く距離が、この庭を広く見せている。
設計はNOT A HOTEL ARCHITECTSと前田建設工業、デザイン監修はジェネラルデザイン代表の大堀伸が担当した。COASTの公式ページは、大堀の仕事を、直線的で鋭い形と、手の跡が残るクラフト感の組み合わせとして紹介する。写真に見える木、石調の床、白い壁も、それぞれ面の性格がはっきりしている。そこへ葉影が重なることで、硬い素材同士の接点に、時刻によって変わる層が一枚加わる。
この写真を自宅のベランダや窓辺へ引き寄せて見るなら、植物の数ではなく、今ある葉影の位置を確かめたい。朝と夕方では、同じ葉でも壁や床に描く線が変わる。家具のすぐ横に鉢を並べるだけでなく、光がつくる二つ目の輪郭まで眺めると、植物と素材の関係が見えやすくなる。
私庭から、芝生の広場へ
今回の更新は、客室だけでは終わらない。2022年に開いたAOSHIMAへCOAST全4室とCHILL2.0全1室が加わり、共用部にはスケートボードパークと芝生のパークエリアが新設された。公式サイトは、芝生広場をヨガや休息に使える場所として案内し、BBQエリアは南国の緑に囲まれた空間として紹介している。
私庭は一棟の内側で過ごし方をつくり、芝生は宿泊者が部屋を出たあとの居場所をつくる。さらに敷地内のレストラン「LDK」は2026年4月に改装され、海を見渡す空間と地元食材の食事を担う。部屋、庭、広場、食事の場所が近いからこそ、植物は鑑賞の対象だけでなく、どこで立ち止まり、どこまで歩くかを決める目印になる。
旅先の紹介は、住所と設備の一覧へ傾きやすい。ここでRareDexが注目したのは、海辺の強い眺望に対して、庭がもう一つの中心をつくっていることだ。海を見るときは視線が遠くへ伸びる。葉の影を見るときは、壁、床、椅子、自分の足元へ戻る。旅先の建築に植物がある意味は、その距離の切り替えにもある。
8月1日、青島で見るべき境界
COASTとCHILL2.0は2026年8月1日に開業する。所在地は宮崎市青島2丁目で、宮崎ブーゲンビリア空港から車で約15分と案内されている。COASTは不動産としては完売済みで、滞在方法や予約可否はAOSHIMAの公式案内で最新情報を確かめたい。
滞在する機会があれば、海側のプールだけでなく、入口から私庭、一階の寝室、リビングへ続く順番を見たい。共用部では、芝生の広場とBBQエリアの緑が、建物の白い面や海の青とどう分かれて見えるかも確かめられる。公式写真と同じ景色を探すより、葉影がどこまで室内へ届くかを追うほうが、その日の光と庭の関係を読めるはずだ。
旅先の植物は、ときに南国らしさを示す記号で終わる。COASTの写真に残るのは、もっと小さく具体的な働きである。白い壁へ影を置き、木の軒とベッドの間にもう一つの層をつくり、海へ向いていた身体を庭へ戻すこと。建築の輪郭が完成したあとも、植物は光とともに部屋の表情を更新し続ける。
