Culture

紙の黒松が、石に根を張る 匠景「磐座」

0.03ミリの土佐和紙、揖斐石、帯地。盆栽の時間を別の素材へ移す

遠目には石に根を張る黒松。近づけば、0.03ミリの土佐和紙の葉が見える。3代目盆栽師・眞利子大介が、盆栽の時間を紙、石、布へ移した。

石付きの和紙盆栽「磐座」の横にしゃがむ盆栽師・眞利子大介
写真提供:眞利子盆栽園(PR TIMES)

遠目には、石に根を張る黒松に見える。近づくと、枝先の葉は0.03ミリの土佐和紙を重ねてつくられている。3代目盆栽師・眞利子大介による匠景 ―SHOKEI―「磐座 ―IWAKURA―」は、生きた樹の姿を写すだけでなく、盆栽が蓄えてきた時間の見せ方を、紙、石、布へ移した作品だ。

生きた技術で、散らない樹をつくる

眞利子は眞利子盆栽園の3代目として樹を育てながら、和紙盆栽「匠景 ―SHOKEI―」を制作している。「磐座」は、そのシリーズで初めて石付きの形式に取り組んだ作品。黒松の幹と根は揖斐石に沿い、葉は薄い土佐和紙を重ねて輪郭を得る。素材は変わっても、枝の間合いや根の流れには、日々の手入れで培った盆栽の目が残る。

これは生きた黒松ではない。水や光を必要とせず、生長もしない。それでも、葉を細かく揃えるだけの模型には見えない。幹から枝へ、枝から葉へと視線を移すと、どこを残し、どこに空間をつくるかという剪定に近い判断が、紙の樹にも通っている。

石付きは、時間を先に見せる

石付き盆栽では、根が岩を抱き、長い時間をかけてそこにとどまった景色を1鉢の中につくる。「磐座」では、その時間が揖斐石と和紙の黒松に置き換えられた。動かない素材だからこそ、根が石をつかむ形は、これから起きる生長ではなく、すでに積み重なった記憶のように見える。

題材の「磐座」は、古くから石に何かが宿ると考えてきた日本の感覚にも触れる。作品のテーマは「ONE LOVE」。ひとつの石に黒松が根を張る姿を、土地や時間を越えて大切なものが結ばれる景色として読むことができる。ここでは神聖さを説明しきるより、石、根、空白の距離が静かに意味をつくる。

鉢を包むのは、伝統的な帯地だ。土佐和紙の葉、揖斐石、布の織りが同じ高さに並ぶことで、盆栽は樹と鉢だけの組み合わせではなくなる。植物の輪郭、地質の重さ、身体に沿ってきた布。その異なる時間が、ひとつの足元に集まっている。

近くで見る、手の痕跡

枝先の密度だけを見ると、紙であることを忘れそうになる。けれど、葉の薄さや重なりを追えば、人の指が1枚ずつ置いた痕跡へ戻る。生きた盆栽が日々少しずつ姿を変えるのに対し、匠景は、ある瞬間に盆栽師が見た均衡をとどめる。変化しないことが、かえって見る側の時間をゆっくりにする。

「磐座」は、渋谷サクラステージ3階で開かれている「LuVLEE Artwork Project」で11月2日まで展示される。会場は10時から22時。アートギャラリーの入場料は1,000円で、公式グッズエリアは無料と案内されている。日替わり企画とは参加条件が異なるため、訪問前に公式情報を確かめたい。

会場では、まず樹冠の輪郭を見てから、根元へ視線を下ろしたい。紙の葉、石をつかむ根、帯地の鉢を順にたどると、盆栽は「育て続ける植物」であると同時に、「育った時間をどう見るか」という技術でもあるとわかる。散らない黒松は、生きた樹の代わりではなく、その時間を別の素材で考えるための静かな器になっている。

参考リンク・出典

この記事の調査・執筆で参照した情報です。各発信元でも原文をご確認いただけます。

  1. PR TIMES利用規約 — 株式会社PR TIMES
  2. 三代目盆栽師・眞利子大介、和紙盆栽『匠景-SHOKEI-』石付き作品「磐座-IWAKURA-」を発表 — 眞利子盆栽園 / PR TIMES
  3. LuVLEE Artwork Project — LivePocket

Related stories