弦楽器の弓は細い。演奏中、視線は弦や指先へ向かい、その棒が一本の木から削り出されていることは見えにくい。多くの現代弓が頼ってきたペルナンブコは、東ブラジルに自生するマメ科の木、パウ・ブラジル(Paubrasilia echinata)の木材名だ。音を運ぶ道具の中に、森の来歴が残っている。
樹木名と木材名を、一本につなぐ
キュー王立植物園のPlants of the World Onlineは、Paubrasilia echinataを現在受け入れられている学名とし、原産域をブラジル東部、主な生育環境を季節的に乾燥する熱帯バイオームとしている。かつて広く使われたCaesalpinia echinataは、現在は異名として扱われる。
樹木はパウ・ブラジル、弓材はペルナンブコと呼ばれることが多い。別々の素材に聞こえる二つの名は、同じ種へ戻る。幹の内部にある赤みの強い材は、染料や木工に使われた歴史を持ち、やがて弦楽器の弓という細長い形に定着した。
写真の木は、サンパウロ州の州立林に立つ一個体だ。灰褐色の幹、細かく分かれた葉、枝先の小さな樹冠を見ると、完成した弓の磨かれた表面とは距離がある。その距離を埋めるのが、木材を選び、乾かし、熱と刃物で曲線へ仕立てる仕事になる。
密度と弾性を、手の動きへ変える
サンパウロ州森林研究所などの研究は、パウ・ブラジル材が約二百年にわたり現代弓の基準になってきたと記す。弓材では、密度、音の伝わる速さ、弾性率、破断への強さが別々に働く。重ければよい、硬ければよいという単純な選び方ではない。
弓のスティックは、張った毛と反対側へ反り、演奏中は細かな衝撃を繰り返し受ける。必要なのは、形を保つ強さと、奏者の圧力や速さに遅れず戻るしなやかさだ。材の密度が途中で大きく変われば、削るときの抵抗も弓の重心も揃いにくい。
同じ研究では、イペなど六つの候補材を物性と試作弓で比較し、パウ・ブラジルに近い数値だけでは弓の仕上がりを説明できないことも示した。細胞の並び、加工しやすさ、材の均一さまで重なることで、細い棒が手の動きを受け止める。
音の外側で、材の由来を読む
パウ・ブラジルは、森の減少と長い利用の歴史にさらされてきた。ブラジル国立大西洋岸森林研究所は、生息地の喪失と過剰利用に加え、近年の弓材利用を主要な脅威に挙げる。花粉を運ぶハナバチと、離れた個体群をつなぐ森も、この木の生長には欠かせない。
CITESでは、パウ・ブラジルと楽器の関係について、木材と完成弓の記録、合法な由来の確認、植林材の扱いが継続して検討されている。古い弓を持つことと、新しく伐った材の取引は同じではない。大切なのは、一本ごとの出所を曖昧にしないことだ。
代替材の研究は、伝統を捨てるためではなく、弓の性能を密度や弾性、細胞構造へ分け、別の木でも確かめ直す試みだ。演奏会で細い弓を見たとき、その先には弦だけでなく、東ブラジルの一種の木と、材を次へ残すための記録が続いている。
