黒い花芯を囲む白い花弁が、緑の布を押し広げる。マイヤ・イソラが1964年に描いた《ウニッコ》は、ケシを細密に写すのではなく、一輪を反復できる大きな形へ変えた。10月3日開幕の「マリメッコ展 模様のちから」では、その花が布とドレスの上で動き出す。
一輪を、反復できる形にする
《ウニッコ》のモチーフはケシの花だ。丸い花芯のまわりに、輪郭の揺れる花弁がひらく。茎、葉、細い葉脈を描き込まず、花の正面像だけを強く残すことで、一輪は植物図ではなくプリントの単位になる。
公式広報用画像では、白い花弁、黒い花芯、緑の地が明快に分かれ、同じ花が向きと間隔を変えながら続く。布の端では花弁が切れ、見えていない次の一輪を想像させる。
反復は花を均一に並べるためだけに働かない。大きな花と余白が交互に現れ、見る距離によって一輪と布全体が入れ替わる。近くでは輪郭の揺れ、離れると花のリズムが立ち上がる。
花がドレスに移るとき
東京展には、初期から現代まで60点を超えるドレスに加え、ファブリックと制作過程を伝える資料が並ぶ。平らな布で繰り返される花は、裁断され、縫い合わされ、肩や腰の曲面へ移ることで見え方を変える。
展覧会は3,500種類を超えるマリメッコのプリントの背景へも目を向ける。ヘルシンキのプリント・ファクトリーを紹介する映像インスタレーションでは、色とかたちが布へ定着していく工程が扱われる。
《ウニッコ》を見るときは、花の名前だけで終わらせず、柄の切れ目を追いたい。裾で一輪がどこまで残り、縫い目をまたぐと花芯と花弁の位置がどう変わるか。植物の形が衣服の動きへ渡る場所が見えてくる。
アール・デコの邸宅に花を置く
会場の本館は、1930年代フランスのアール・デコ装飾を基調とする旧朝香宮邸だ。壁、照明、扉に模様が息づく建築へ、20世紀後半の大胆なプリントが加わる。
ここでは、花柄だけを切り離して見る必要はない。植物を単純化した曲線、建築の幾何学、ドレスの輪郭が同じ視野に入る。模様は物の表面に載る飾りではなく、空間と身体の尺度を決める要素になる。
本展は一部作品を除いて撮影できない。画面に残すことより、実物の布で花の大きさ、色の境界、織り目との関係を確かめる時間になる。公式画像で形を覚えておくと、会場で布の厚みとドレスの立体へ視線を移しやすい。
10月3日、時間を決めて見る
会期は10月3日から12月20日まで。東京都庭園美術館の本館と新館で、10時から18時まで開く。入館は閉館30分前まで、月曜休館を基本とし、一般1,400円。本展は日時指定予約制で、来館前のチケット購入が必要だ。
最初に《ウニッコ》の一輪を見つけ、次に反復、布、ドレス、建築へ視野を広げる。ケシは原寸を離れても植物であることを失わない。花の特徴をどこまで残し、どこから模様になるのか。その境目を歩く展覧会になる。
