水面に浮く睡蓮、池を囲む柳、空と雲を映す水。クロード・モネがジヴェルニーにつくった水の庭は、晩年の《睡蓮》連作を三十年にわたり育てた。十月三日からプラネタリアTOKYOで再演される「モネを巡るクラシック」は、その絵画世界を光、色、時間の表情から360度映像と弦楽四重奏へ移す。
モネは池から庭をつくった
モネは一八九三年、ジヴェルニーの自宅近くに池のある土地を購入した。目で楽しみ、絵のモチーフにもするため、水の庭へ整えていく。池には睡蓮が浮かび、日本風の木橋にはのちに藤棚が加わり、柳や竹、周囲の葉が水面へ影を落とした。
《睡蓮》の連作は一八九〇年代末から一九二六年まで続いた。オランジュリー美術館は、水の庭から生まれた作品群を約三百点と説明する。睡蓮は一度描かれた図案ではなく、季節、時刻、雲、風によって毎日組み替わる生きた観察対象だった。
初期の構図には池の縁と密な植生が入り、別の構図では水面だけが切り取られる。花、葉、樹木の反射が水平線のない画面に散り、どこを中心に見るかが固定されない。公演前にこの二つを知ると、緑の量感と水面の空白を別々に受け取れる。
光の変化を弦で聴く
公演はサティの「ジムノペディ」、ドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」と「月の光」、ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」、ベートーヴェンの第九などを弦楽編曲で組む。モネと同時代の音楽を軸に、生涯と絵画世界の変化が重なる。
演奏するKokonQuartetは、二本のヴァイオリン、ヴィオラ、コントラバスの編成だ。一般的な弦楽四重奏のチェロを、さらに低い音域のコントラバスへ置き換える。低音が池の暗い反射を支え、高音が花や光の細かな変化へ届くような広い帯域が生まれる。
公式説明が約束するのは、モネの絵画世界にある光、色、移ろう時間をモチーフにした360度映像だ。特定の《睡蓮》一作をそのまま投影するという説明ではない。水の庭の植物史は、映像の中から正解を探すためではなく、色の移り方を受け止める土台になる。
座席で変わる映像と生音の距離
前方指定席は生音の臨場感に近く、後方指定席は音楽とドーム映像の一体感を受け取りやすいと公式ページが説明する。サイド指定席は会場の雰囲気と音楽を気軽に楽しむ区分だ。座席番号は選べないが、三つのエリアから目的に合う距離を選べる。
全天映像はドーム壁面まで広がるため、壁際や後方ではプロジェクターの光を強く感じる場合がある。開演中の写真、録音、録画は禁止されている。画面を残すのではなく、花の輪郭が色へほどける瞬間と弦の余韻を、その場の時間として受け取る公演になる。
十月三日から十一月二十九日まで
会場は有楽町のコニカミノルタプラネタリアTOKYO DOME1。上演時間は約五十分で、通常回は午後二時十五分、金曜は午後七時十五分に開演する。十月十七日だけは午後零時十五分と午後二時十五分の二回公演だ。
前方・後方指定席は五千五百円、サイド指定席は四千四百円で、別途システム利用料がかかる。ticket boardで各公演の開演時刻まで販売され、予定枚数に達すると終了する。未就学児は入場できず、会場窓口と電話での販売はない。
睡蓮は池に浮かぶ一輪でありながら、モネにとっては天候と時間を測る庭の時計でもあった。自らつくった池を三十年見続けた画家の時間へ、五十分の弦と光が重なる。ドームを出たあと、水面や鉢の葉に落ちる光も、少し長く見ていたくなる。
