小さな花は白い。それでもムラサキと呼ばれるのは、土の下の根が赤紫の色を抱えているからだ。宮城県加美町では、その根を育て、絹へ色を移す仕事が続いている。
白い花、赤い根
ムラサキの受容学名はLithospermum erythrorhizon。ムラサキ科の多年草で、Kew Scienceは東シベリアから日本までを自生範囲としている。
地上では細い茎に葉がつき、その先に白い花がまとまる。名前の手がかりは花弁ではなく、掘り上げた根にある。加美町は、この根を紫根と呼び、古くから染料や薬用に使われてきたと伝える。
根の色が絹へ移る
紫根は、紅花や藍と並ぶ日本の代表的な植物色素の一つとされる。加美町の説明では、古代には朝廷の高位を示す色にも用いられた。
花の白、根の赤紫、染め上がった布の紫は、同じ色ではない。植物のどこを見るか、どの素材へ移すかで、ムラサキの色は段階を変える。
加美町では染織工房の手で、町産の紫根がシルクの小風呂敷、ポケットチーフ、ショールへ使われている。植物の根が衣服の近くへ届くまでに、栽培と染めの二つの仕事が重なる。
薬莱山の麓で育てる
栽培地は加美町のシンボル、薬莱山の麓にある集落だ。町はこの地域を、世界農業遺産「大崎耕土」の奥座敷と位置づけている。
国内の野生個体が減り、絶滅危惧種とされる植物を、地域の畑で育てる。色を得ることと株を残すことが同じ場所で進む点に、紫根染の現在らしさがある。
同種の実写では、白花は葉の上に小さく集まり、強い紫を予告しない。派手さのない地上部と、色を蓄える根の対比が、この植物を忘れにくくする。
三つの色を順に見る
ムラサキを見る時は、まず白い花を確かめたい。次に根が赤紫であることを知り、最後に染め上がった絹の紫へ目を移す。
花だけなら名前とのずれが残る。根だけなら野生で生きる植物の姿が消える。花、根、布を順に見ると、色の名が植物の一部分から文化へ広がった道筋が見えてくる。
加美町のムラサキは、白く咲き、土の下に色を蓄え、人の手を通って絹へ移る。紫は一瞬の花色ではなく、育てる時間と染める仕事が重なった色だ。
