一本の植物でも、根が触れる土の状態は場所ごとに違う。名古屋大学の研究チームは、シロイヌナズナが一部の根で窒素不足を感じたとき、その知らせを葉へ届ける過程に欠かせない共受容体CERIを見つけた。離れた根どうしが不足分を補う仕組みの、新しい接点である。
窒素不足は 根から葉へ向かう
土の中の硝酸イオンは均一ではない。ある根の周囲で窒素が足りなくなると、その根は15個のアミノ酸からなる短いペプチド、CEPをつくる。CEPは水を運ぶ道管を通り、地上部へ移動する。
葉では受容体CEPR1がCEPを受け取る。すると葉から別のシグナルCEPDが根へ戻り、まだ硝酸イオンが残る場所の根で吸収を促す。窒素を探す根が勝手に動くのではなく、根と葉を往復する連絡によって、植物全体の取り込みが調整される。
CEPR1の隣にいた CERI
CEPを認識した後、CEPR1がどの分子と組んで細胞内へ合図を渡すのかは分かっていなかった。研究チームは、CEPが結合したときだけCEPR1と相互作用する膜タンパク質を探し、CEP RECEPTOR INTERACTORの頭文字からCERIと名づけた。
CEPR1はCERIと結びつくと、CERIの細胞内側の領域をリン酸化する。これが下流のシグナル経路を動かす。CERIを欠くシロイヌナズナでは、全身的窒素要求シグナリングが失われた。CERIは単独で不足を測るセンサーではなく、CEPを受けた受容体と組んで信号を先へ渡す共受容体だ。
植物のペプチドホルモンに関わる共受容体は14個あると推定され、これまで11個の機能が分かっていた。CERIは、役割が不明だった残り3個のうちの一つに当たる。今回の発見は、窒素応答だけでなく、この共受容体群の働きを埋める手がかりにもなる。
小さなロゼットが見せる 全身の調整
シロイヌナズナは、地面に葉を放射状に広げる小型のアブラナ科植物で、植物研究のモデルとして使われる。掲載写真は花茎が伸び始めたロゼットの参考写真で、今回の実験個体ではない。葉のまとまりの下では、多数の細い根が異なる土の区画へ伸びている。
2014年の研究では、窒素不足の根がCEPを送り、葉の受容体がそれを受け取る経路が示された。2026年の研究は、その受容の直後にCERIが加わることを明らかにした。12年前に描かれた根と葉の往復経路へ、膜上の具体的な連結点が足された。
肥料を減らす完成技術ではない
研究チームは、少ない窒素肥料で育つ作物の品種改良へ応用できる可能性を挙げる。ただし、今回示されたのはシロイヌナズナの分子経路であり、特定の作物や栽培現場で肥料削減を実証した結果ではない。実用化には、作物ごとの検証が必要になる。
家庭の鉢植えで施肥量を変える直接の目安にもならない。葉色や成長の変化には、水分、根傷み、光、温度など複数の原因があるため、この研究だけを根拠に窒素肥料を増減するのは避けたい。
今回見つかったのは、動けない植物が、離れた根の状況を一つの個体としてそろえる仕組みの一端だ。窒素の乏しい場所から上がったCEPは葉でCEPR1とCERIに受け取られ、別の根へ向かう指令につながる。小さなロゼットの内部を、根から葉、葉から根へと二方向の知らせが走っている。
