アイビーの茎が、指の間を渡り、耳の縁をのぼり、首もとへ伸びていく。ブシュロンは2026年9月9日、「リエール ドゥ パリ」の新作9点を発表した。ホワイトゴールドとダイヤモンドで写し取るのは、花束のように整えた植物ではなく、支えを探して進む葉と茎の動きだ。
9点に分かれる 一本のつる
新作は3種類のリング、ペンダント、クラスプのないチョーカー型ネックレス、2種類のイヤリング、2種類のブローチで構成される。トゥーフィンガーリングは二本の指に葉を渡し、アシンメトリーのクリップイヤリングは片耳の輪郭に沿う。ブローチはピンの構造によって髪にも着けられる。
葉の表にはダイヤモンドを敷き、裏には光を通す透かし彫りを入れる。葉脈、葉の重なり、丸みを残した先端まで、正面だけでなく横や裏から見た立体が設計されている。植物の面を宝石で埋めても、茎の進む方向は失われない。

壁を登る仕組みが 装身具の線になる
セイヨウキヅタ(Hedera helix)は、若い段階の茎から不定根を出し、垂直の支えがあると登り始める。北米で侵略的に広がる地域もあり、栽培場所には注意が要る植物だが、その「触れた場所から次の足場へ進む」姿が、リエールの曲線を読み解く手がかりになる。
ブシュロンがモチーフとして挙げるのは「リエール(アイビー)」で、特定の種名ではない。葉の切れ込みや葉脈、茎の曲がりが、装身具の中でも植物らしい表情を残している。
リングでは茎が指を一周するだけで終わらず、隣の指へ伸びる。ネックレスは留め具のない輪郭を首に沿わせ、イヤリングは左右を同じ形にそろえない。アイビーの登り方を、身体の各部に合わせて別々の軌道へ変えた構成だ。
1870年から続く アイビーの系譜
アイビーがブシュロンのジュエリーに初めて現れたのは1870年。1879年、創業者フレデリック・ブシュロンはクラスプを持たない「クエスチョンマーク ネックレス」の最初の意匠にリエールを選び、1881年に作品として実現した。
1920年代には、つるの先端まで金で表す造形へ発展した。2012年のハイジュエリー、2025年と2026年の「ヒストリー オブ スタイル」にも再び現れ、2026年には身体の上で成長するような大きさの作品へ拡張された。
今回の9点では、そのハイジュエリーの発想がリングやペンダント、イヤリングへ広がる。着ける場所ごとに葉の向きと茎の曲がり方が変わり、同じモチーフにも異なる表情が生まれている。
9点を分ける 身体との接点
日本で示された税込み予定価格は、スモールリングの171万6,000円からペンダントイヤリングの1,623万6,000円まで。価格差だけでなく、葉が一点に集まるリング、首を横切るネックレス、髪にも移せるブローチという、身体との接し方の違いが9点を分けている。
葉脈を透かし彫りにし、茎を留め具のない線へ変え、左右非対称のまま耳へ沿わせる。壁面を登るアイビーの性質は、装飾の背景ではなく、ジュエリーが身体のどこへ、どう伸びるかを決める設計になっている。
