Culture

花を飾る夜から 植物の間に座る夜へ

池尻大橋のガソリンスタンド跡地で Ikejiri Wart Fair 最終日

ワインの場に花を添えた前回から、今年は多数の植物そのものが人の居場所を分ける。池尻大橋駅前のガソリンスタンド跡地で、DDAAが会場を構成した「Ikejiri Wart Fair」は8月30日に最終日を迎えた。高さ約6メートルの庇の下に、植物とスツール、アートと音が並ぶ。建物になる前の短い空白が、一夜の部屋へ変わった。

白い布を掛けたテーブルで黄色と橙色の花のそばにワインを注ぐ人々と チューブ状の照明
撮影:Max Houtzager|Omotesando Wart Fair 2025/Ikejiri Wart Fairプレス素材

冒頭の写真は、2025年8月に表参道で開かれた初回「Omotesando Wart Fair」の実景である。今年の池尻会場の記録写真ではない。前回はテーブルクロス、花、照明を軸に人が集まる場をつくり、今回の公式発表では、その考え方が多数の植物とスツールによる配置へ更新された。前年は花が人の集まりへ加わり、今年は植物そのものが人の居場所を分けた。二つの会場の違いに、植物が空間を変える力が表れている。

花を添えた前年から 植物の間へ

WARTは、ワインとアートを軸に、食や音楽を一つの場へ重ねるプロジェクトだ。2025年の初回も会場構成はDDAAが担当した。公式資料によれば、食卓でよい時間を過ごすための「テーブルセッティング」を会場全体へ広げ、テーブルだけでなく、ソファ、ベッド、脚立、冷蔵庫にも布を掛け、花とチューブ状の照明を添えた。店と客を分けるカウンターを置かず、注ぐ人、飲む人、音を選ぶ人が同じ床を共有した。

今年の舞台は、池尻大橋駅前のガソリンスタンド跡地である。閉業後、新しい施設へ移るまでのおよそ一か月だけ使われる暫定的な場所だ。交差点へ大きく開いた剥き出しの空間に、DDAAは多数の植物を置き、その間へ居場所となるスツールを点在させた。前回の花は食卓の近くで視線を受け止めたが、今回は植物の並び自体が、人の立つ場所や座る距離をつくる。

ここで植物は、出来上がった部屋を飾る最後の要素ではない。壁を建てずに、空間を小さく分ける最初の手がかりになる。葉の幅や株の高さが違えば、向こう側の人の見え方も変わる。通路を線で引かなくても、植物を避けたり、その間のスツールを選んだりする動きが生まれる。これは公開された会場構成からRareDexが読み取る編集上の観察であり、現地での体験を装った描写ではない。

六メートルの庇から 街へ開く

ガソリンスタンドの庇は、雨を避けながら車が出入りするための大きな屋根だった。今回の会場では、高さ約6メートルの天井からチューブ状の照明が吊り下がる。前回の実写でも、細い発光体は床近くまで降り、テーブルの周囲に縦の線をつくっていた。今年はその線の下に植物とスツールがある。天井の高さを人の尺度へ引き寄せる照明と、足元から立ち上がる植物が、用途を失った広い床へ二つの方向から輪郭を与える。

DDAAは建築、都市計画、ランドスケープ、インテリア、プロダクトを横断する設計事務所で、独自のリサーチと試作を行うDDAA LABも持つ。今回の面白さは、恒久的な建築へ作り替える前に、移動できる要素だけで滞在の形を試している点にある。植物、スツール、照明なら、壁のように敷地を閉じない。交差点との距離を残しながら、立ち止まる理由を内部につくれる。

植物の品種や植栽を手がけた人物は、確認した公式情報では公表されていない。そのため、葉の形から種類を推測したり、特定の植栽家の仕事として語ったりはしない。重要なのは希少な植物が並ぶことではなく、名前の示されていない植物でも、椅子と椅子の間、人と街の間に置かれることで空間の機能を持つことだ。

アートも音も 同じ床に置く

営業当時にサービスルームだった部分では、原宿のギャラリー「Scooters For Peace」がポップアップを展開する。イベントのアートワークには、サンフランシスコを拠点とするバリー・マッギーが参加し、サウンドディレクションはDJコレクティブCMYKを主宰するNomizoが担当した。作品や音を背景へ下げるのではなく、ワイン、食、会話と同じ場所に置くというのがWARTの構成である。

最終日の8月30日は、代々木上原のUKIYOがワインを提供し、赤坂のSabasuと池尻大橋のMassifがフードで参加する。これは店を並べるための情報というより、日ごとに人と味が入れ替わっても、植物とスツールが共通の居場所を支えることを示す。提供者が変わる三日間に、移動しない植物の配置が会場の骨格として残る。

最終日に 配置を見る

「Ikejiri Wart Fair」は8月30日17時から23時まで。会場は東京都目黒区東山3-15で、入場は無料。ワインを飲む場合は別途2500円のグラス購入が必要で、会場内のドリンクとフードはキャッシュオンとなる。運営の公式Instagramでは会期と当日の参加店を確認できる。公開状態は8月30日朝に確認したが、急な変更があり得るため、出発前に最新投稿を見たい。

見るべきなのは、植物の種類だけではない。どの植物の近くにスツールがあり、葉の向こうに街がどれほど見え、照明の縦線がどこで床へ近づくのか。花を一輪置くことと、多数の植物の間に座ることでは、人と植物の距離が違う。前者は一つの卓上へ視線を集め、後者は身体の向きや隣の人との間隔まで変えうる。

植物を部屋へ迎えるときも、空いた角を埋めるだけでなく、その鉢のそばで何をするかまで考えられる。椅子を少し動かす、通り道を残す、向こう側の景色を葉越しに見る。池尻の三日間が示すのは、植物の価値を単体の姿だけでなく、周囲の関係を組み替える力から選ぶ入口である。

参考リンク・出典

この記事の調査・執筆で参照した情報です。各発信元でも原文をご確認いただけます。

  1. ガソリンスタンド跡地が3日間限定でワインとアートの空間に。『Ikejiri Wart Fair』8月28日より開催 — ログズ株式会社 / PR TIMES
  2. Ikejiri Wart Fair official Instagram — Ikejiri Wart Fair
  3. DDAA Inc. — office — DDAA Inc.
  4. ワインとアートを楽しむ『Ikejiri Wart Fair』、池尻大橋で3日間開催 — Numéro TOKYO
  5. 池尻大橋のガソリンスタンド跡地が、3日間限定でアートとワインの空間に。バリー・マッギー、DDAAらが参加 — 美術手帖
  6. ガソリンスタンド跡地で楽しむワインとアートと音楽。3日間限定のIkejiri Wart Fairが開催されます。 — HOUYHNHNM
  7. 『Ikejiri Wart Fair』が気になる。 — POPEYE Web