冒頭の写真は、ニューヨーク植物園のEnid A. Haupt Conservatoryを写したものだ。今回のバッグそのものではない。コレクションの一部が参照した、白い鉄骨とガラスの反復を確かめるための一枚である。中央のドームへ向かって小さなアーチが連なり、建築が巨大な葉脈のように空を区切っている。
庭の景色を 柄だけで終わらせない
Spraygroundが8月25日に発表した協業は、バッグとアクセサリーの全30点。熱帯の葉や花を重ねたプリント、植物園の地図とブロンクスのグラフィック、装飾花器を思わせる形、満開の花を立体へ置き換えた小さなポーチまで、植物の扱い方は一種類ではない。庭を一枚の写真として転写するのではなく、建築、標本、街の記号を別々の造形へ分けている。
なかでも温室を着想源にしたダッフルバッグは、この協業の距離感をよく示す。植物そのものを大きく印刷する代わりに、Enid A. Haupt Conservatoryの弓形の窓をバッグの構成へ移した。ニューヨーク市の資料では、この温室はLord & Burnhamの設計で19世紀末に建設され、ヴィクトリア時代のガラス温室を伝えるランドマークと位置づけられる。植物を育てる器だった建築が、今度は荷物を収める器の輪郭になる。
植物画が ストリートの速度をまとう
もう一つの素材は、植物園が蓄積してきた植物画である。Spraygroundの発表では、NYBGの植物画コレクションをデザインへ取り込んだことが明記されている。植物画は、葉のつき方や花の構造を一枚に残すための遅い観察から生まれる。そこへ太いロゴ、格子、濃い色面、バックパックのポケットが重なると、図譜の線は街を移動する速度を持つ。
花を模したミニポーチでは、変換はさらに直接的だ。平面の柄ではなく、花弁がバッグ自体の外形になる。花器から着想したバッグ、温室の窓を配したダッフル、植物画を重ねたバックパックを並べると、同じ“botanical”でも、形、表面、構造という三つの入口があることがわかる。植物モチーフの量ではなく、どの部分をデザインへ残したかを見るコレクションだ。
ブロンクスの庭から ブロンクス川へ
この協業には土地の近さもある。Spraygroundはブロンクスにルーツを持ち、NYBGも同じ区で135年を迎えた。ブランドの説明によれば、コレクションの売上の一部は植物園の活動を支える。公式コレクションページは、その接続先としてブロンクス川沿いの在来樹植栽を挙げている。
NYBGのBronx River Watershed Health & Resilience Programは、外来植物の管理と在来種の再植栽を組み合わせ、河畔林、生物多様性、水質、洪水への強さを支える複数年の取り組みだ。バッグに描かれた葉と、川沿いに植え戻される樹木は同じものではない。それでも、植物園のイメージを借りる商品が、植物園の実務へ利益を返すとき、協業は柄の貸し借りを越えられる。
持ち歩く前に 参照元を見る
ポップアップはニューヨーク植物園で9月7日まで。休業日が設定されているため、訪問前に公式案内を確かめたい。オンライン販売の開始日は、8月26日の確認時点でブランドの発表文とコレクションページに異なる記載がある。価格や販売地域の案内には差異があるため、購入前には公式商品ページの最新表示を確認したい。
画面でバッグを見る前に、温室の写真を一度見ておくとよい。どのアーチが残され、どの植物画が街のグラフィックへ変わり、花のどこが立体になったのか。参照元へ戻ると、植物モチーフは飾りではなく、デザインの判断として見えてくる。
都市の植物園は、植物を集めて見せる場所であると同時に、建築、図像、地域の生態系を長く蓄える場所でもある。その蓄積を肩に掛けて街へ出す今回の30点は、庭の外にもう一つの入口をつくった。バッグを置いたあと、元になった温室や川沿いの樹木を知りたくなるなら、そのデザインはすでに植物園へ戻る道を持っている。
