植物を描くことは、名前を覚えることとは別の観察を連れてくる。葉の付け根はどこから細くなり、主脈は先端までどんな角度で走るのか。Royal Botanic Gardens, Kewは、植物画には科学的な記録としての役割があり、図版では付着の仕方や大きさ、細部まで示せると説明する。一方、スケッチブックを開く人に必要なのは、完成した図鑑の精密さだけではない。目の前の葉について、自分が何を見つけたかを残すことも、描く理由になる。
ロンドンを拠点にするアルゼンチン出身のボタニカルアーティスト、Daniel the Gardenerは、イラストレーション、絵画、タトゥーを行き来しながら植物を描いてきた。Hachette Australiaが8月25日刊行として案内する著書『Beyond Botanical: A Guide to Drawing Plants in Nature』では、葉、茎、花を題材に、遠近、陰影、構図、ドローイングとジャーナリングを扱う。『Beyond Botanical』の刊行をきっかけに、身近な植物を描き留める三つの道具を机に並べる。
描く前に 葉を置く場所をつくる
最初の道具は、罫線のないA5のノート。ミドリのMDノート A5 無罫は、176ページのMD用紙を糸かがり綴じにし、180度開く仕様だ。見開きを一つの面として使えるため、左に全体の輪郭、右に葉柄や縁の拡大を置くといった構成を邪魔しにくい。植物画専用の紙ではないからこそ、観察した日付、置いていた場所、新しく気づいた特徴を、絵の隣へ自由に書き足せる。
白いページの中央へ、いきなり葉を大きく描かなくてもいい。まず上端、下端、左右端の四点を小さく決め、その内側へ輪郭を収める。次に葉柄が入る方向と、主脈の傾きを一本置く。ページに対してどこに存在するかを先に見ると、形を知っているつもりで描く癖から少し離れられる。
六つの濃淡で 緑の内側を見る
二つ目は、一本の濃さに決めない鉛筆。ステッドラーのマルス ルモグラフ 6硬度セットには、8B、7B、6B、4B、2B、HBが一本ずつ収まる。硬度の幅は、輪郭と影を同じ黒で囲まないために使える。HBや2Bで全体の位置と主脈を軽く置き、葉が重なる部分や裏側へ折れる部分だけを、より軟らかな芯で深くする。
緑の葉も、鉛筆に置き換えると一色ではない。窓側の面、葉脈の間、先端の乾いた部分、葉柄の陰にはそれぞれ違う明るさがある。すべてを塗りつぶさず、紙の白を残したまま濃い場所を少しずつ増やすと、色に隠れていた厚みや向きが現れる。六本をすべて使う必要はない。二、三本を選び、どの差に自分の目が止まったかを確かめたい。
色を足すとき 名前より先に見えるもの
三つ目は、呉竹のZIG クリーンカラー リアルブラッシュ 24色。毛筆タイプのペン先を持つ水性染料インキの筆ペンで、細い線と面の塗りを一本で行える。色を足すなら、植物名から想像した緑を選ぶ前に、葉を二つの距離から見る。少し離れて最も広い色を確かめ、近づいて葉脈、縁、斑、傷などの小さな差を探す。
最初から全面を均一に塗るより、色のある場所をいくつか離して置き、その間を紙の白や鉛筆の灰色でつなぐ。一本の葉に黄緑、青みのある緑、褐色が同時に見えるなら、それは塗り間違いではなく、その日の葉が持つ情報だ。写真では一瞬で受け取る色を、手を止めながら選び直すことで、植物の変化を別の速度で読める。
上手さではなく 見つけたことを残す
一枚を描き終えたら、完成度を採点する代わりに、描くまで気づかなかったことを一行だけ添える。葉の左右で鋸歯の間隔が違った。新しい葉ほど主脈が明るかった。葉柄の断面は想像より厚かった。そうした小さな発見は、次に同じ株を見るための目印になる。日付のある写真を残すRareDexの記録とも異なる角度から、一株との付き合いを深めてくれる。
ノートは観察の面をつくり、鉛筆は明暗を分け、筆ペンは色の差を拾う。三つを揃えても、毎回すべてを使わなくていい。輪郭だけの日、葉脈を一本追う日、色を二つ試す日があっていい。机の上で一枚の葉を見直すことは、植物を作品に変えるためだけではなく、見慣れた株をもう一度、未知の形として迎えるための習慣になる。
