Culture

畑で育った色をルイ・ヴィトンの輪郭へ Claudy Jongstraが手がけた2026秋冬

ウールとシルクに植物由来の色を重ねる 自然をモチーフから素材の工程へ戻したコレクション

葉を砕き、丸め、発酵させると、緑の植物から青が現れる。冒頭の写真はルイ・ヴィトンの服ではなく、ウォードから顔料を得る工程を写した資料だ。ルイ・ヴィトンの2026秋冬ウィメンズでは、Studio Claudy Jongstraが植物由来の色とウール、シルクを用いたテキスタイルを開発した。自然がプリントの図柄ではなく、色をつくる畑と手仕事の工程から服へ入ったコレクションだ。

ウォードの葉、葉を砕いて丸めた球、青い顔料が三段階に並ぶ植物染料の工程
撮影:Frédéric Neupont|Muséum du Pastel de Toulouse-Labège / CC BY-SA 4.0

青い粉、乾いた球、摘みたての葉。三つを同じ画面へ置くと、色は絵具のチューブから始まるのではなく、畑から取り出すものだと分かる。写真に写るのはウォード(Isatis tinctoria)の染料工程であり、今回のコレクションや使用植物を示す記録ではない。Studio Claudy Jongstraはルイ・ヴィトンのために植物由来の色を開発したと公表しているが、どの染料植物を各ルックへ使ったかまでは明らかにしていない。本稿でもウォードの使用を推測しない。

自然を描くのではなく色の作り方から入る

2026年3月10日、パリのルーヴル美術館クール・カレで発表されたルイ・ヴィトンの2026秋冬ウィメンズ。ニコラ・ジェスキエールは、創業者ルイ・ヴィトンが故郷のジュラからパリへ旅した軌跡を、自然と未来が交差する装いへ結びつけた。LVMHの公式解説には、木肌を思わせるレザー、植物と動物の痕跡、革でつくられた架空の花などが並ぶ。自然は一つの花柄へ収まらず、表面、量感、輪郭を変える設計としてコレクション全体へ広がっている。

そのなかでStudio Claudy Jongstraが担ったのは、植物を写すことではなく、色と布の手触りを育てることだった。スタジオの公式記録によれば、ウールとシルク、植物由来の色、古い植物染色とフェルトの技法を用いて、複数のルックへ組み込まれるクチュール・テキスタイルを制作した。色を表面へ印刷するのではなく、繊維の内側へ含ませ、布そのものの厚みや毛羽立ちと一緒に見せる。そこにこの協業の核がある。

ウールとシルクが植物の色を受け取る

Claudy Jongstraは二十年以上、羊毛と植物の色を手仕事のなかで結んできた。スタジオでは羊毛を再生的な農業と結びつけ、セイヨウアカネ、ウォード、ウェルドなどを季節ごとに収穫し、色をつくる。これは同スタジオ全般の制作基盤を示す情報であり、ルイ・ヴィトンの各ピースに三種すべてを使ったという意味ではない。それでも、植物の生育、収穫、染色、カーディング、フェルト化が一続きにあることは、完成した服の色を単なる色名ではなく、素材の履歴として見る手掛かりになる。

ウールは繊維同士が絡み、フェルトになると端を切ってもほつれにくい。シルクは細い糸が色を受け、軽さと艶を残す。性格の異なる二つを重ねれば、平らなプリントでは生まれない隆起や濃淡が現れる。TextielMuseumもJongstraの仕事を、植物染色の知識とフェルト化した羊毛を結ぶ実践として紹介している。植物の色は均一な工業色を模倣するためではなく、繊維ごとの吸い込み方や手の圧力まで含めた表面をつくる。

畑からクール・カレまで距離を縮める

ラグジュアリーの植物表現は、刺繍された花や葉、庭園を思わせる舞台へ目が向きやすい。今回は、完成品からは見えにくい染色の前工程までが服の輪郭を決めている。植物がどこで育ち、いつ収穫され、どの繊維に移されたか。すべての詳細が公開されているわけではないから、環境負荷までを一つの協業だけで評価することはできない。ただ、自然を称える言葉より先に、素材をつくる工程が示されている点は見逃せない。

ルイ・ヴィトンの日本公式では、2026秋冬コレクションが現在の新作として案内されている。ただし、Jongstraが手がけたテキスタイルの個別商品、国内での取り扱い、価格を示すものではない。ルックを見るときは、植物の形を探すだけでなく、色の境目、毛足の方向、厚みのある部分へ目を寄せたい。自然は図案として前面に出なくても、布の構造に残ることがある。

秋冬の服を色の出自から見る

植物染めという言葉は、ともすると生成りや淡色だけを想像させる。だが、ウォードの葉から青が現れ、セイヨウアカネの根が赤の層をつくるように、植物の色は原料の姿と完成後の印象が大きく異なる。その変化を知ると、服を選ぶ視点も少し変わる。色名や季節のトレンドに加えて、何が色を生み、どんな繊維がそれを受け取ったのかを確かめたくなる。

ルイ・ヴィトンとStudio Claudy Jongstraの協業が示したのは、植物を装飾へ足す方法ではなく、服ができる手前へ植物を戻す方法だった。畑で育つ色、羊毛とシルク、手でつくられる表面。その距離が短くなるほど、秋冬の一着は見た目だけでなく、素材が通ってきた道まで含んで立ち上がる。身近な布の色を見るときも、その始まりを一度たどってみたい。

参考リンク・出典

この記事の調査・執筆で参照した情報です。各発信元でも原文をご確認いただけます。

  1. New Handbags for Women — Louis Vuitton Japan
  2. Louis Vuitton Fall-Winter 2026 Women's Show — Louis Vuitton Japan
  3. Super Nature for Louis Vuitton Women's Fall-Winter 2026 collection — LVMH
  4. Louis Vuitton Women's Fall Winter 2026 — Studio Claudy Jongstra
  5. Philosophy — Studio Claudy Jongstra
  6. File:Pastel pigment cocagnes et feuilles - Muséum du pastel.jpg — Wikimedia Commons
  7. Kleurstof — TextielMuseum